オオクチバスの特定外来指定によって
 発生する可能性のある問題点について
(社)全日本釣り団体協議会 

               

前提となる条件について

 (社)全日本釣り団体協議会では、在来生物の生態系を維持するために、オオクチバスについて、
その生息場所の不拡大,漸減。生息数の減少とそのために必要な有効利用を含めた秩序を求めてきた。
オオクチバスが魚食魚であり、これが在来魚の生態系変化の一因であることを理解している。
しかし、現実とは遊離した完全駆除の議論を継続するよりも、次善の方途として、既に分布している
一部の水面での釣りの継続と、秩序維持のためのルールを確立することにより、具体的な対策に入る
べきであると考えている。
さらに一層、外来魚が生態系に及ぼす影響についての正しい知識の普及にも努力する方針である。
(参照:全釣り協のスタンス
重ねて記すが、釣り人の大多数はオオクチバスのこれ以上の生息域拡大を望んでいる訳ではないし、
生息数の抑制に反対している訳でもない。
オオクチバスが日本の大半に生息している現状に鑑み、現実的な対策と、秩序を望んでいる。
なお、申し添えると、暫定的にブラックバスに秩序を求めても、それは現状認識に立った上でのこと
であり、全ての外来魚種の生息を将来的に認めたこととは意味が異なると判断している。

 

以上の観点から、オオクチバスが特定種となった場合を想定し、起こり得る問題点を列記しておく。

 

1、オオクチバスに関する被害の認識について

    オオクチバスによる食害被害があげられているが、外来魚の被害を示すデータは存在するものの、
それを理解するには十分ではないと、釣り人の多数が感じている現状のままでは、釣り人が協力する姿勢
への転換は困難をともなう。

    オオクチバスに対し“害魚”との印象が強調されすぎている報道等と、日ごろから魚との接触の機
会が多い釣り人の現状認識を比較して、このことへの反動として、オオクチバスを擁護する心情が強くな
っている人々が、バス釣り愛好者の中でかなりな割合をしめている。

    オオクチバス以外に、在来魚の生態系を混乱させたさまざまな要素に対して、指摘がなされず、し
たがって対策が講じられないまま長い年月が経過してきたため、オオクチバス対策に対する信頼度が極度
に低下している。

    このため、現時点で指定した場合、何ら合意形成が図られないままに、一部の人の主張によって押
さえ込まれたとする反発のほうが強くなり、このことによりさらに反発や混乱が生じる可能性がある。

 

2、移動の禁止について

現在、都道府県において「移植の禁止」がさだめられており、釣り人はこれを遵守している。
オオクチバスに関するかぎり、あらたに移動の禁止の法を重ねる必要があるか検討の必要がある。
(明らかな違法行為であることを知りつつ違法放流を行うものがいるとの風説を聞くが、もしいたとしても
善良な市民、正常な釣り人とは認め難い)

 

3、管理の方法について

①現在の全国的な生息状況は、公有水面だけではなく、個人所有の溜池等を含め、70%以上の水域におい
て生息、繁殖しているものと推定されている。これを速やかに、全面的に、排除する方法は、現時点にお
いて存在するとは認識できない。したがって、指定されたとしても、結果として混乱、放置の状態が継続
する可能性が大きい。

    オオクチバスに関しては、現在組織的な不法放流は確認できない。これまで排除活動実施にあたり
釣り人側に対する協力の働きかけは皆無であり、現地での話し合いにあたって、むしろ排他性を痛感して
いる。たとえば、外来魚排除についても、一方的な協力を要求されるのみであり、事前の話し合いが行わ
れた場合でも、釣り人の意見に対する評価は、不当に圧迫されてきたと感じる人が多い。

こうしたことから、オクチバスに関し、釣り人の間に、不公平感や、被害感情が濃厚に存在する。
したがって、このまま指定したとしても、形の上でのことにとどまり、むしろ逆効果になる可能性も高く
現存するオオクチバスへの対策になりえない。

    現在漁業権魚種となっているオオクチバスについて

現在までに内水面の湖沼4箇所に漁業権が与えられており、いずれも適切に管理されている。
指定された場合、今後は合法的にオオクチバスの遊漁利用が保証された水域が認められなくなる可能性が
あり、これは我が国において80年にわたって培われた釣り文化にとって大きな損失であり、指定の意味
するところが理解されたとき、大きな反発が生じる可能性が高い。

    内水面漁業協同組合は、漁業権魚種の管理を行うとともに、河川環境の管理者であると認識してい
る。同時に在来魚種の管理もその手に委ねられてきた。現在、漁業者が管理している水域にオオクチバス
が生息している。オオクチバスを排除しようとする方向ばかりではなく、異なる方向、すなわち、完全排
除が不可能であり、オオクチバスによる漁業権魚種の食害がほとんど確認できない、在来種に与える影響
もそれほど無いし、駆除の効果もほとんど無いとの理由で、オオクチバスを漁業権魚種として、指定を受
け、適切な管理と組合運営を行いたい意向を持つ組合がかなりの数に上っている。今後も在来魚を含め内
水面の管理にあたっては、地域の特性に応じた、柔軟な対応が必要であり、地元の意向を重視するかぎり
においては、適切な管理が行われ、秩序が成立することは、前記4湖の例によっても明白である。

既にオオクチバスが生息し、有効活用している地元意向を抑制することは、かなりな困難を伴うと
ともに、本来一体であり、親密な協力関係にあるべき、釣り人と漁業者の関係を、結果として遊離し
たものに導き、混乱を生じる可能性が大きい。

 

4、釣り人の協力を求めていくためには

    オオクチバスの生息地のうち人里離れた山間部に位置する場所も多い。これらの地域で地元の
多数の合意と協力がなければ、管理を進めることはきわめて困難を伴う。

    取り締まり等を実施するよりも、むしろモラルの醸成が至当である。このためには、日本の自然を
回復させるとともに在来生物の生態系維持の貴重さを、周知徹底させるだけの妥当性の理解が必要である。

    自ら、麗々しく主張する筋のものではないが、ことにあたり、一応理解いただきたい事柄であるが
釣り人は、往々、他者から押し付けられた秤を持って物事を判断することを否定する傾向がある。だから
こそ、釣りを楽しみとせざるを得ない側面がある。
このため種々の制限が増加しつつあるこの時代、社会的に容認されない行動で、非難される場合もある。
反面、釣り人には、独自の価値判断とモラルが存在する。これに適切で正確な判断材料を付与した場合、
大きく自浄作用が機能する。
生命の尊厳に対する、独自の価値観や海の魚に対する体長制限、産卵期の魚を釣らない申し合わせの急速
な普及、食べない魚の再放流などの例である。
 今回、釣り人の理解を得ないまま指定されるとしたなら、そうした釣り人心理を逆に大きく刺激し、無
秩序を助長する危険がある。

 

5、生命体のうち特別の種を排除することへの認識について

人や社会が、過去の軌道修正を行うとき、ことに生命体を管理下に置こうとする場合、このことに対する
深い謝罪の意識と、広く全般における合意が必要となる。

オオクチバスの場合、現時点では、このための合意は困難をともなう。

時間をかけた説得が必要であり、そのためには、第一段階として一定の秩序への組み込みが必要であると
考える。ことに近年青少年の凶悪犯罪が増加傾向にある中で、ルアー釣りを愛好する若者の生命に対する
価値観は貴重な存在であろう。これら若者たちの当面の目標であるオオクチバスを否定することになれば
混乱を生じさせるおそれがある。

 

6、その他の影響について

    現在、25歳以下の釣り人の大半は、ルアー釣り愛好者であるとされている。

ルアー釣りのなかでもバス釣りに重きを置いて活動するものが多い。このため従来の我が国の釣り文化
との間で断絶を生んでいるかのように見える。これらの若い釣り人は、年齢の経過とともに、釣りに関
する興味の質が多様化し、その途上で新たな対象や、技術が派生する。しかしやがては古来から続く釣り
文化の中に融合される。バス釣りもその途上にある。そのためには秩序が必要である。
 このような現状からみて、現時点で価値観の変動を経験させるよりも、時間をかけた説得が有効である
と考えている。この点、各位にご理解いただきたい。

    オオクチバスに関連して、釣具産業、貸しボート、ガイドなど直接的なものばかりではなく、これ
により生計をたてているもの、さらにはバスに関連して辛うじて形をなしている幾つかの漁業協同組合の
現状や、このことに賛同する、地方自治体も増えつつある。
こうした現実を黙殺することなく、時代に応じて円滑な変動を、との視野で配慮いただければ幸いである。

     釣りを取り巻く、さまざまな自然及び社会的要素は大きく変わろうとしている。

釣りや、内水面漁業も、これらに対応して変わらねばならない。しかし、そうした変化を社会全体が確認
し、同意するためには、時間的な経過と関係者の意識の相互連携を欠かすことができない。
今回の会合はそのための好機であると考えている。

一部の釣り人の自己中心的な行動、モラルの問題等により、さまざまな軋轢が生じていることも承知して
いる。しかし、これを改めるに指弾ではなく、自浄能力の喚起に的をしぼって、今後ともに釣り文化を
継承していくことに、理解と協力を求めたい。



  Topに戻る