バス封じ込め(住み分け)の提案と全釣り協の考え方

 オオクチバス、コクチバス、ブルーギルなどの外来魚が、わが国の内水面の生物たちにさまざまな影響を与えていることが大きな問題になっている。 いま、釣り人は、バス愛好者であるとないにかかわらず、この問題と向き合わざるを得ない立場にある。
(社)全日本釣り団体協議会では、1975年ごろから、この問題に強い関心を持って取り上げようとしてきたが、社会現象ともなったバスブームにより、結果的になすところなく経過してきている。こうした釣り人団体と同様、行政を含め、関係者すべてが、有効な手段を手がけることなく、今日にいたっており、当然、外来魚に対しての秩序などについても、未来を見据えた対策を提案し得なかったこと、バスの無制限な拡大を止めることができなかったことを反省するとともに、わが国の自然に対し、深く詫びねばならないと考えている。

現在、外来魚問題がかかえている要素を、簡単に整理しておく

@    外来魚(コクチバス、オオクチバス、ブルーギル)が、在来魚種の生態系を乱している。

わが国には古代のコイにはじまり、様々な魚が持ち込まれている。明治、大正、昭和初期にかけて食料資源として35種が導入された。戦後に至ればさらに84種が導入されている。このなかで半数近くが魚食魚であるのに、これまで問題として扱われていなかった。

生態系の乱れは、例えば源流域などにおける森林相の激変に伴う自然環境の破壊、ダム、護岸工事なども無関係とはいえない。だが、オオクチバス、コクチバス、ブルーギルが大きくとりあげられるのは、この3種が日本の湖沼で自然繁殖し生息域がなお拡大していることによる危機感を押さえられないからだと思われる。
ことにコクチバスは冷水域で繁殖するとされ、これがヤマメ、イワナ、アマゴをはじめとする源流の生態系を大きく変える可能性があることが問題をさらに深刻にしている。

A    内水面漁業者の間に、被害感情が強まっている。被害について科学的に確たる裏づけはなく算定は困難であるが、釣り人もこれを重要課題として受け止めている。

B    入漁料金等を支払うことなく釣り人が湖沼、河川で釣りを楽しんでいることに地元の漁業権保有者が不公平感をもっている。

オオクチバスが漁業権魚種として認められている芦ノ湖、河口湖をはじめとする4箇所はすでに秩序の中に組み込まれ入漁料が徴集されているほか、地元で経済的な位置づけが得られている。しかし、バスの釣り場として有効に利用されている場所は、ほかに全国いたるところに存在し、なかには地方自治体ぐるみで重要な観光資源として取り組んでいる場所も多い。こうした場所では貸しボート業者や民宿などが重要な収入源として営業を継続している。

同一の自治体において、漁業権魚種の被害感とともに、他方で利益を上げているわけである。こうした地元における不公平感が、問題の重要な部分をしめているのではないかと推測される

C    釣り人が、釣り場環境に与える影響や地域住民にかける迷惑(ゴミ、駐車場、便所)など。

D    一部地域でのキャッチアンドリリースの禁止(新潟、岩手、埼玉、長野)以後、釣り人の間にさまざまな意見がでていている。

ア、      在来の漁業権魚種の増殖を目的とした放流のありかたが、真の意味での在来魚の保護とかけはなれているケースが多く、河川を利用した釣り堀と異なるところがない例がみられる。

イ、      このような現状に対し意見を提出しようとする場合、漁協の閉鎖性や運営の非公開性などにはばまれ、提案、改善機能が働いていないことが多い。

ウ、      今後、キャッチアンドリリースの禁止が提案される場合、釣り人側の意見が十分汲み取られないままに定められる可能性がある。

全釣り協の提案

@    外来魚の密放流が反社会的な行動であることは平成11、12年における広報活動により周知されたことと判断する。ただし、こうした密放流が放置された年月が、長期にわたったこともあり、今後も引き続き、その主旨をさらに徹底させる必要を感じる。

A    一方で東北地方などにおいて、いまだにバス生息域が拡大しているとされていることについては非常に残念である。今後さらに、これら外来魚拡大地域、ことにコクチバス拡大地域に、これ以上外来魚の生息域を拡大させないような、意識を周知徹底させる必要があると考える。

B    このような目的を遂行する上で釣り人と、漁業者との信頼関係を回復させるための話し合いの機会が必要であり、さらに、その内容を報道機関等を通じ公開することにより、釣り人が何を望んでいるか、釣り人にできることはなにか、が判明し、魚を含む自然環境の回復のための相互理解の手段として、きわめて有効ではないかと考える。

C    バス等外来魚の生体再放流禁止の委員会指示を定める県が増えてきた。これがバスの排除に対して、どの程度有効であるかは別問題として、釣り人の間では、むしろ感情面の解決策、あるいは無関係な釣り人をも巻き込んだ報復手段であるかのように受け止められがちである。このことは、キャツチ・アンド・リリースが自然保護運動の一部であると教えられて育ってきた若い釣り人層の間に反発を生み、いわば漁業権を名目とした横暴と映っている。さらに、これが一部の狂信的なバス愛好者に口実を与えている面もあることを指摘しておく。

岩手県において、生体再放流の委員会指示決定以前に試みられたように、事前にバス愛好者団体代表にも、発言の機会を与えるなどの姿勢があれば、良好な結果が得られるのではないかと考える。その際には、第三者的な立場として良識ある釣り人の立会いが必要である。全釣り協はこうした釣り人の人材を養成すべく、釣りインストラクター、フィッシングマスター制度の充実を急いでいる。釣り人はもとより内水面漁業関係者にも理解、協力いただくようお願いしたい。

D    バスの漁業権魚種指定を求める声の一方で、バスなど外来魚が生息してはならない地域の指定を求める声が聞こえるようになった。両者の考え方は全く異なっているように見えて、大半の釣り人は過去のバス拡大の苦い思いを含め、秩序を求めていることが浮かび上がる。

E    現在の制度下では、オオクチバスは一部漁業権魚種指定地域を除き生息が許されないのが前提であるが、すでに全国的に拡大したオオクチバス、ブルーギルを排除することは不可能であり、現実的ではない。したがって、一定の秩序のもとに時間をかけて整理するほかはない。当面の急務として、排除可能な場所を、緊急優先排除地域、いわば聖域として指定し、釣り人も一体になって外来魚の排除を実施することには積極的に協力することが可能である。速やかに具体案に着手する必要があろう。

F    緊急排除地域において、バス、ブルーギルなど排除の具体策の一部として、それぞれの地域と釣り人の合意にもとづき、排除されたバスの受け皿として限定した場所に集めて管理するという「封じ込め(住み分け)」が最も現実的な手法であり、当面、外来魚被害を最小限にとどめ得る可能性を持つと判断し提案している。

G    漁業法、水産資源保護法のうえで現在認められていない、「増殖義務をともなわない管理」の方策も模索する必要がある。

H    外来魚をめぐる秩序作りに、優先するのは地元漁業者及び住民の意思である。これを無視した外来魚の全面駆除等には同意出来ない。ただし、漁業権魚種の指定を行おうとする際には、広い分野における釣り人側の同意が求められる。

I    緊急排除地域を定めるに際し、増殖義務にともなう漁業権魚種(アマゴ、ヤマメ、イワナ他)の稚魚の放流に際しても、現地の魚から採卵したものに限定するなど、在来魚の生態系保持のあるべき姿の再検討を望みたい。

J    釣り人の間には、漁業協同組合への不信感が根強く存在している。ダム建設等において漁協の同意によって自然破壊が実現したと考える釣り人も多いし、運営の内容が公開されていなかったことも原因であろう。一方、外来魚問題における、地元漁業者とのわだかまりを、話し合いながら解除し、外来魚を含めた内水面の秩序を確立することも今後の大きな課題である。

K    地方自治体などで、バス等を観光資源ととらえ、漁業権魚種指定を経ずして観光協力金等を徴収しようとする動きがある、これは今後のわが国の内水面における生態系の維持管理に重大な影響を及ぼす可能性があり、将来に禍根を残すことのないよう、未然に防止すべきである。

L    現在の漁業協同組合に、河川湖沼だけではなく、その周辺における環境管理を委ねるなど、英国、米国ほか欧米諸国の制度を参考にした管理権限をもち、絶えず釣り場を巡回するなど、積極的な管理にあたる監視員制度を構築する必要がある。そのための経費の一部を釣り人が負担することも考慮する。また、ボランテイア活動等を利用した環境監視などの取り入れが検討されるべきである。

M    新たな外来魚が持ち込まれる危機を強く感じている。観賞魚等を目的とした海外からの輸入に際し、断固とした防止対策が必要である。今後も、確信犯的な悪質者の前に、善意の多数が無力であり、巻き添えとなる可能性を痛感する。より強力に、水際での徹底した予防措置がはかられることを希望する。

(平成13年4月全釣り協理事会承認資料より抜粋)

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