外来魚問題に関する全釣り協の考え方
1、外来魚問題について釣り人の考え方
海釣り、渓流、アユ,ヘラブナ、バスなど、それぞれの専門分野によって多少の相違はあるが、これまでの外来魚の無秩序な拡大にはさまざまな要因があげられており、の経緯が明らかになるにつれ、今後、釣り人も自然環境の監視員としての役割を分担すべく、意識の周知徹底をはかるとともに、現在の状況から判断して外来魚も秩序の中に組み込んだ上で、生息地、生息数の減少に協力する必要があると考えている。
以下、順を追って項目別に整理しておく。
1)外来魚の生息地増加の収束傾向と不法移植の現状認識
外来魚の不法移植は平成4年の水産庁通達以後、次第に少なくなり、ことにここ数年、移植が違法な行為であることが周知されるに及んで、ほぼ収束したと思われる。
今後も一部で放流が行われ有る可能性はあるが、それは限られた犯罪行為である。
2)外来魚種全面駆除の可能性について
現在問題になっているブルーギル、オオクチバス、コクチバスについて、全面的な排除は、理論的に存在すると聞いているが、生息地の多様性、ことにブルーギルの生息数等からみて、現実的ではない。また、米国の一部地域で過去に試みられた例によっても完全な駆除は成功していない。
3)いま、できることはなにか、釣り人の協力体制について
現実的な手段としては、在来魚のなかでも優先的に保存する必要のある緊急排除水域を指定し、すべての釣り人が協力して排除に着手すべきである。排除水域は現実的に可能性の高い場所を選定し、地元はもちろん、国民全般の合意にもとづくムーブメントとして、継続的に行うべきである。実施に際し、キャッチアンドリリースという、生命体尊重の意識を重視する世界的な釣りの流れを、当然のこととして教育されてきた若い釣り人層の考え方に十分な配慮する必要がある。
これまでの「駆除活動」があまり有効であるとされないのは、これら若い釣り人層の認識として、漁業権者側と、それを擁護する立場にある自治体側からの押し付けとの印象が強まっていることが最大の要因である。釣り人も参加した話し合いの場が設けられ、意見が聴取され、その上で緊急排除水域の設置の重要性が理解された場合、自らの意思によって積極的に参加、協力が実現するであろう。
琵琶湖のリリース禁止に対する反発など、前記のケースに該当する。
4)棲み分け(封じ込め)と外来魚種の秩序への組込み
優先排除水域とセットされた、受け皿としての外来魚有効利用水域を定め、秩序に組込み、その結果として、できるだけ速やかに、排除水域の拡大をはかることが可能となる。この場合、こうした外来魚の移送及び管理の経費等に関しては、利用、管理料等により、釣り人も応分の負担することが可能である。
5)外来魚の管理について
集められた外来魚の管理を危惧する意見も存在するが、先に述べたように、すでに不法放流に対する認識は社会全般に周知されており、確信犯、愉快犯など犯罪意識を持つもの以外には存在し得ない。このまま手をつかねて議論のみを重ねるよりも、遅滞なく、棲み分けを試みることが、外来魚種の生息地、生息数を減じるための有効な手法であろう。
6)内水面における魚の価値観の変動について
上記のような「棲み分け」を提案する背景に、わが国における淡水魚の価値観に大きな変動が生じていることにも留意が必要である。1913年(大正2年)はじめて多摩川にアユが放流されて以来、わが国の河川における釣りは、アユを主力として発展してきた。止水域ではヘラブナ釣りが中心であった。個人的には誠に残念に思うが、ここ10数年、ことに止水域の釣りはオオクチバスが中心であり、ことに若い釣り人層には、圧倒的にバス釣りが支持されている現実がある。
淡水魚の多くが、蛋白資源としての価値を漸減させている反面、スポーツフィッシングの対象としてのバスに対する価値観は上昇を続けた。このことを認識せざるを得ない。
7)釣り人が内水面漁業協同組合に期待する姿
ここ数年、年齢による釣り人層の断絶にともない、在来の釣りを愛好するものの数は大幅に減少し、かわって若いバス愛好者が急増した。われわれ全釣り協は、釣り文化を継承し後世に伝え残すことも命題のひとつと考えているが、ここにきて、この状態を放置すれば、古来からの釣り文化はもとより、内水面の釣りそのものが絶滅に瀕するという危機感を持つに至っている。
例をあげると、さまざまな原因を含めたアユ釣り不振の結果、われわれ釣り人の、唯一の伴侶である漁業協同組合の経営が苦しくなり、漁業権を返上せざるを得ないケースも出てきている。このような変革の時期にあたり、外来魚を管理する側面としての有効利用もやむなしとの提言を試みたい。
過去、水辺の自然環境保全において漁業組合が果たしてきた役割を高く評価している。しかし、現状では内水面漁業において専従者が激減している。これまでのよう稚魚の放流等による、増殖管理ばかりでなく、環境の保全、管理の役割にも、これまで以上に力を注がれることにより、釣り人も積極的な協力が可能となる。
以上の観点から、米国における環境監視員制度や、英国におけるリバーキーパなどの制度を参考に、あらたな体制を組みかえる必要を痛感している。この場合、釣り人も環境保全のための監視、通報者としての役割を積極的に果たすべきである。こうした時代の流れに適応すべく、釣りインストラクターが養成されていると考えている。
2、釣り人のモラルと自浄能力についてあるべき姿を考える
これまで度々指摘されているように、釣り場に放置されているゴミ、違法駐車の問題等々の、釣り人のモラルの低下が、外来魚に対する地元の反感を惹起していることは否定できない。この部分についても、前記外来魚を秩序の中に組み込むことにより、現代の若者の特質とされる、「定められたルールには比較的素直に従う」とした傾向を活用して誘導することは可能であろう。
これまでの外来魚問題は、法規の埒外におかれた期間が長期にわたったために発生した事象であると考えている。現状を直視した、すみやかな秩序への組込みこそ、問題解決の足がかりとして不可欠なものである。
平成13年10月理事会承認済
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