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水辺の賢者たち-3-
金森 直治
←青ギスの脚立釣り
昭和30年ごろ
人気抜群!東京市長の名言
「釣りは下手がいい」と説き、粗末な服装で身分を隠して釣りを楽しみ、満天下の釣り人の人気を集めた男がいた。
永田青嵐(ながたせいらん・1876〜1943)は本名・秀次郎。兵庫県淡路島生まれの政治家。大変な秀才で内務官僚として活躍し、東京市長・鉄道大臣などをつとめた。
特に関東大震災のとき東京市長として敏腕をふるい、歴代市長の中でも大物とされ名市長とうたわれた人物である。
しかし釣りをこよなく愛し、俳句をひねって虚子(きょし)とわたり合うなど、野人の面も持っていた。
「東京市長を振ろうとままよ、キスの沖釣りゃやめられりょか」などとうそぶきながら、青ギス釣りの脚立にまたがっていたと伝えられるが、その頃こんな文章を残している。
「都会には公園が必要である。市民の衛生と慰安のためだが、公園の設備には随分と金がかかる。しかるに東京市四五十万人の釣り師は何の設備もない海や川へ竿一本で出掛けている。
東京近郊の海や川は皆この多数市民の公園である。(中略)こんな安あがりの公園はない。およそ公園に税金を取るところはない。だから魚釣りに税金をかけるなどは、以てのほかの考え違いである。
これはよろしく割引き乗車券でも出して、大いに優待すべきものであると思うている」
実力派の高級官僚で法律の専門家であった青嵐が、都会周辺の自然の大切さをこのように考え、釣り人の権利を理解していたことは興味深い。
近年、釣り場を奪われた釣り人のために、巨費を投じて各地に「釣り公園」なるものが造られてきた。これはいったい喜ぶべきことなのか、悲しむべきことなのか?
自然のままの海や川を公園だと主張した釣り師青嵐が見たら、うーんと絶句するに違いない。
人うらむ 心さめけり 沙魚日和(はぜびより) 青嵐
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